「むの字屋」で軽く一杯
★うちわの季節★17/8/10のお酒
そのお店を六本木のぼったくりおでんやといって笑っているのは常連の女の子である。
関西風のさっぱり味のおでんがうまい。庵主はおでんのうまさをこのお店で知った。
六本木の駅から徒歩3分の、いや、2分ぐらいか、駅を出てすぐの所といったほうがいいか、「才六」(ぜいろく)である。
お酒がうまいお店である。以前は日本酒一本槍の店だったが、いまは焼酎の揃えも多い。時流である。
近所で軽くお酒を呑んだ後に、まともなお酒を呑みたくなって久しぶりに訪れたのである。
久しぶりとはいっても、庵主はいうなれば「藪入りお客」だから、どこのお店にも似たようなものなのだが。
いろいろなお店で呑んでいるものだから、どこのお店も一年にせいぜい2度ぐらいしか顔を出さないからである。
一年に1度しか行かない「七夕お客」状態のお店もあるのだが、それでもお店の人は顔を覚えているのだからすごい。
そういう姿勢のお店にうまいお酒があるということである。
「才六」は相変わらず出てくるお酒はうまい。
酔っぱらっていたから何を呑んだか思い出せないが、期待どおりのうまいお酒を呑んだという満足感に満たされたということはしっかり覚えているのである。
そして暑い夏には重宝なうちわを貰ってきた。
「酒を飲む 天下を呑め 才六」と書かれたうちわである。骨がプラスチック製であるところがちょっと寂しいのだが。
★靖国神社で一杯★17/8/16のお酒
戦後60年を迎えた八月十五日の靖国神社は20万5千人の参拝者で賑わったという。ここ2、3年のその日の人出は6万人ぐらいだったというから、さすがに還暦という記念日は動員力がある。
お賽銭も、例年の3倍はいくことだろうから、靖国神社の職員は今年の冬のボーナスは少しは期待できることだろう。
今年は、中国と韓国が反日運動で事前に盛り立ててくれたからいっそう人出が多かったのだろう。中韓は靖国神社の強力な応援団なのである。おっと、神社の応援団のことは崇敬会というのだったっけ。
15日の午後2時過ぎの拝殿は賽銭箱にたどり着くまでに行列をなしているほどの人出だった。
庵主は葬式の焼香でもないかぎり、行列をするのは真っ平だから、それを見て日を変えて参拝することにした。
八月十五日に靖国に行くなら午前中だという。
正午に一分間の黙祷をするのだが、その間、ざわめいていた境内は一瞬静寂に包まれるという。
そして夏よこれまでとばかりの最高潮の蝉時雨がその静寂をおおいつくすのである。
心は昔に、耳は今と結んでいるのである。
わざわざ靖国神社を訪れたのだから、せっかくだからご当地で飲み食いしたい。
境内の食事処には「海軍カレー」「靖国うどん」「英霊ラーメン」(これはない)と、懐かしいというか、ありがたい食べ物が揃っている。
外苑休憩所で飲める生ビールはサッポロビールである。
サッポロビールのマークは星一つなので、庵主はそれを二等兵ビールと呼んでいる。
「旭日」(あさひ)ビールや「三鳥居」(さんとりい)ビールでもいいのだろうがここはやっぱり二等兵ビールなのだろう。
終戦の日も暑い日だったという。
十月十日は晴れの日が多い特異日だという。八月十五日もやたらと暑い日になる特異日のようである。
南方戦線で戦っている兵隊さんには悪いけれど生ビールがうまい特異日なのである。
それを知っている庵主はうまい生ビールを飲むためにその日満員御礼の靖国神社を訪れたのである。
「こんなうまい生ビールを飲めるのも、先の戦争で苦労された兵隊さんのおかげです」と感謝して味わったのである。
ちなみに翌16日の靖国神社の境内は前日の喧騒がうそのようにガラガラである。庵主が参拝したとき、お賽銭箱の前には4人しかいなかったのである。ほとんど貸し切り状態だった。
英霊が苦笑してるのが見えるようだった。
★「日本城」★17/8/30のお酒
和歌山の「日本城」(にほんじょう)を呑む。
新宿三丁目のおでんやである。
お酒は何かときいたら、「日本城」だけですという返事だった。
たしかに入口に「日本城」の化粧樽がおいてあった。店主のご出身が和歌山だからだという。
「日本城」、久しぶりである。乃木坂に「祭りばやしハンナ」というお店があってそこで呑んだことを覚えている。もう何年も前のことである。いまでもそのお店はやっているのだろうか。
ここ「富久」にあるのは純米酒と本醸造だという。
純米の燗を頼んだら、燗にするなら本醸造の方がいいということだったので、燗はやめて純米を冷やで呑むことにした。客はひねくれているのである。
いい純米酒である。まずいわけではない。かといって香りはなやかなわけでもない。ていねいに造られたお酒である。
さあ、ここで問題なのである。文句のつけどころがない純米酒なのに、呑んでいてちっとも面白くないのである。
お酒の選択を間違えたのかもしれない。ほんとうは本醸造のほうがきさくな味わいだったかもしれない。
では「本醸造」も、といきたかったが、うっかり制止するのが遅れて小皿にまであふれているお酒まで呑んでしまった上はもうそれ以上呑めないのだった。
★贅沢な夜★17/9/9のお酒
中野サンプラザで行なわれたアンチュナの新曲発表会をきいたあとに駅前で一杯呑む。
「越の華 純米吟醸 酒に心あり」 山田錦50% 値段はそこそこ。
酸味に特徴がある。新潟の酒ではあるが、よくあるぺらぺらの新潟酒と違ってしっかり幅がある。
本当はもっとはんなりした酒質かと思ったのだが。主張のある味わいだった。
「香露 大吟醸」 山田錦38% 90ML1300円
その品のよさは最高。たおやかながらも味のある大吟醸の模範。
「郷の誉 純米大吟醸 花薫光」90ML1995円
伝承古法 山廃生モト 5年古酒 山田錦28% 他公表なし
中国の茅台酒のにおいに似た香りを感じるのがこのお酒の特徴。一度呑めば記憶に残る。冷えていると香りゆたか。お値段が高い酒なので、それを意識して呑んでいると贅沢感にひたれる味わいである。温度が上がると酒の輪郭がぼやけてくる感じがするからほどよく冷えているうちに呑むのが正しいようだ。
お店は中野の「酒亭ひらの」である。
ほっとする酒揃えをしているお店である。
田酒、南部美人、七福神、義侠、天狗舞、黒帯、菊姫、開華、正雪、磯自慢、香露、月の桂、越の華、花薫光と選ぶお酒に不自由をしないのである。
一つひとつのお酒が一騎当千である。夢が広がる銘柄ばかりなのである。なるほどこういうお酒の揃えかたがあるのかと酒祭りを見ているだけでもおもしろい。期待がそそられる。血がたぎるのである。
贅沢なお酒を呑ませてもらった。
★平成16年金賞受賞酒「土佐しらぎく」★17/10/28のお酒
平成16年の金賞受賞酒とあるからちょっと紛らわしいのである。
暦年と酒造年度が異なるからである。
それが酒造年度なら今年(平成16年)造られたお酒である。すなわち、平成16酒造年度というのは平成16年7月1日から平成17年6月30日までだから、その大吟醸は年を越してから仕込むのが普通だから、平成16年の大吟醸は平成17年に造られたものである。
平成16年というのが歴年のことだったら、平成16年2月か3月に搾られたお酒である。
さて、どっちなのか。
このお酒は1年寝かせたというから、平成16年に醸されたお酒である。
庵主は、1年から2年じっくり寝かせたお酒がうまいと思うようになってきたので「土佐しらぎく」の金賞受賞酒があると聞いて、それが1年寝かせたお酒だと聞いて、今夜呑むのはそれがいいということになったのである。
金賞受賞酒である。期待通りの味わいである。この場合は期待をたがわぬ味わいだったと書いたほうがいいかもしれない。うまかった。
★ハウスワイン★17/12/19のお酒
庵主が飲むワインはいわゆるハウスワインである。
銘柄なんかわからないワインである。運がよければいいワインの余りものだったりするのだろうが、普通は日本酒でいえば普通酒のランクといったワインなのだろうと思う。
何年も寝かせてから飲むのではなく、早いうちに飲んだほうがうまいワインなのだと思う。
最近、粉物(こなもの。ピッツァとかナンやパンなどの小麦の粉で作ったもの)に白ワインという絶妙な組み合わせが気に入ってしまい、白ワインを楽しむためにピザとかインド料理店のナンを食べることが多くなった。今日も窯焼きのピッツァ屋に入って白ワインで食べた。
もちろんオリーブオイルを少し小皿でもらってそれを付けて食べるというのが庵主の定番である。
きょうのピッツァはうまかった。
白ワインもちょっと甘口で庵主好みなのもいい。それが1杯260円だというのも庵主にはありがたい。量はいらない、おいしい酒をちょっとだけ口にしたいからである。
仕上げに、ホットラズベリージャムをかけてたべるバニラアイスクリームをもらう。
新宿の武蔵野館という映画館の地下にある「カプリチョーザ」というお店である。
★お正月だからシャンパンを飲もう★18/1/9のお酒
お正月である。
新年を寿 (ことほ)ぐお酒を呑む。
町に出る。
お正月である。気取ってシャンパンを飲む。
シャンパンは炭酸がはいっているワインである。スパークリングワインともいう。日本では色付きサイダーまでシャンパンと呼ばれているが、本当はフランスのシャンパーヌ地方で造られたスパークリンクワインだけをシャンパンと呼ぶのである。
シャンパンというのは産地限定の呼称なのである。
それがうまい酒かといったら、庵主に関してはいいシャンパンを飲んだことがないのでわからないとしか答えようがない。
これまで飲んだシャンパンでなら、自信をもって答えられる。うまいものはなかったと。
焼き肉屋である。
「パイパー エドシック ピパリーノ」なるシャンパンを置いてあった。200MLで1500円で出ていたから、量が手頃なのでそれにする。
値段が手頃かどうかは知る由もない。
能書きを読むとうまそうであるが、呑んでみるとそれほどの酒ではない。たぶん日本なら色付きサイダーといった酒なのだろう。
それでも定義上はシャンパンなのである。
世の中にはきっともっとうまいシャンパンがあるに違いないと期待をいだかせる味だった。
ビッツア屋で「フェラリー」なるスプマンテを飲む。
ピザとピッツアは違うものらしい。まずいのがピザでうまいのがピッツアか、庵主にはよくわからない。
子どものころにはなかった食い物である。うまいのかまずいのかわからないからである。
スパークリングワインをイタリアではスプマンテという。
そのお店は近頃の洋食屋で、メニューを見ても料理名や酒の名前がアルファベットで書かれているだけでフリガナがないから、そのスプマンテの読み方は多分「フェラリー」という感じに読むのだろう。違っていたらごめんであるが、庵主は日常的にシャンパンを飲むことがないからその酒銘などはどうでもいいのである。
こちらの方が、先に飲んだシャンパンよりも少し味があった。
飲む酒がだんだんうまくなるというのはありがたい。先が楽しみだからである。
とはいえ、庵主は今年は何回シャンパンを飲むことやら。
どうせ飲むなら多少値段は高くてもうまいシャンパンを飲みたいと庵主は考えるのである。そう思うのである。
★雪の朝の一杯★18/1/21のお酒
東京にしんしんと雪が降る。
寒気に包まれた冬の朝は空気に凛とした心地よい緊張感がある。
おもむろに手近にある四合瓶に手をやる。室温でも瓶はよく冷えている。栓をあけるとたちまち瓶の口からお酒の匂いがたちこめる。
酵母が造りだした匂いというよりも麹が醸し出した匂いだろう。酒粕の匂いである。美酒である。
庵主はその匂いがお酒だと思っている。
アルコールを入れ過ぎたお酒は日本酒だと言ってもこの生気が弱いのである。だからそれは形だけのお酒だと思っている。そんなのは呑んでもつまらない。
お酒は「綿屋」の特別純米酒美山錦である。生気は感じられても、甘さがないのは美山錦のせいなのか、「綿屋」のせいなのかは庵主にはわからない。
だからいいお酒ではあるが、呑んでみるとちょっとつれない味をしている。舌をくすぐってくれると甘さがほしい。庵主はあまいお酒が好きなのである。
しかしお酒の姿勢がいい。すっくと背が立っているのである。その凛々しさがいとしい。冷たいお酒が舌にのせるときれいにとけていくのがわかる。舌の温度とお酒の温度がとろけあう、そのうまさ、なんともいえない。冬のお酒のうまさである。
朝っぱらからお酒を口にするのはなんだけど、雪の降る朝のお酒はまるで蔵の中で呑むようにうまいのである。
だから、この日だけはちょっとだけ禁を破るのである。
東京にも雪が降る、年に一度か二度の朝だけである。
★「久保田」の「萬寿」★18/3/22のお酒
「久保田」の「萬寿」を御馳走してもらった。
もう呑むことはないだろうと思っていたお酒である。はっきりいって馬鹿にしていたのである。新潟のタンカラ(淡麗辛口)酒だから呑むまでもないと思っていたのである。庵主はお酒の好き嫌いがはっきりしてきたからである。
公式的には、「今はつぎつぎにうまいお酒がでてきますから昔からの名声があるお酒はどうしても呑むのはあとまわしになってしまいます」、ということになる。
で、素直な気持ちにもどって味わってみたのである。
香りがよかった。こんなきれいな香りがするお酒だったのかと感心してしまった。
そこでやめておけばよかったのである。
呑んでみたらアルコール臭かった。純米大吟醸だから添加したアルコールではないはずだけれど、アルコールが味になじんでいないという感じだった。アルコールのニオイが浮いているという感じだった。
やっぱり呑まなくてもよかったのである。このお酒、値段が高いんでょう。
なんとなく電通だか博報堂だかの広告代を呑まされているような気がしたものである。へんな情報を知っているとお酒が素直に楽しめなくなるということである。
新装相成った飲食店でよくあるように、料理の値段が改装費の分だけ高くなったものを食べさせられているような印象が免れなかったのである。
おっと、ただで御馳走になったのだった。「けっこうなお味のお酒でした」。
めったに呑めないお酒だから、その都度呑んだときの印象が違うけれど、たまたま御馳走になったときに出てきたお酒の感想だから、うまい「萬寿」を呑んでいる人は幸せということなのである。
ただ、この日の「萬寿」の香りはほんとうに美しかったのである。
★「王禄」の「渓」に化粧品の匂い★18/5/5のお酒
「王禄」の「渓」を呑む。
冷えたお酒が出てくる。純吟無濾過本生だから、酒につやがある。色気がある。力があるのが見て取れる。
炭を使ってやせてしまった酒とは違うお酒のつや。うまそうに思わせるオーラである色気。そして、はったりのないお酒がたたえている本物から伝わってくる力である。
お酒のうまさというのはそういう色気の集大成の上にあるということである。
冷蔵庫から取りだしてきた一升瓶から注がれたお酒はよく冷えている。
つめたいということだけですっとはいってしまう。つめたいから欠点がよくわからないからである。
ほぼ1合のお酒が注がれると、庵主はすぐには呑めないから、そのお酒は時間をへてはじめは冷えていて固かったお酒が酒温が上がるとともに味がほぐれてくる。
「渓」が思わぬ変化をみせたのである。
何が起こったのか。
冷えていたときには気がつかなかったが、酒温が上がったらお酒に化粧品のような匂いが出てきたのである。
香水などの化粧品の香料をフレグランスというのに対して、食品の香料をフレーバーという。
化粧品にフレーバーはかまわないが、食品にフレグランスを使ってはいけないという。香水ならフルーツの香りは好ましいが、オレンジジュースに化粧品の香りがしたら気持ち悪くて飲めないからである。
「渓」に出てきたのは、化粧品のような匂いだった。
ローズティーやジャスミンティーみたいに花のにおいがするお茶があるから、花のの匂いがしても飲めないわけではないが、それに似た匂いを含んでいる日本酒というのははじめてである。奇酒といっていい。
めずらしい経験をしたのである。
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