庵主が好きなお酒をご紹介いたしましょう

 庵主が好きな酒は甘い酒です。甘口の酒ではなくて、旨(あま)い酒です。甘口の酒と旨い酒の違いは日々一献の中に書いてあります。
 庵主が旨い酒を好むのは、酒の量がたくさん呑めない体質なので少量でもうまいと感じられる酒でないと楽しめないという理由によります。ということで、ここで紹介するお酒はそういう庵主の口に合った酒なので、庵主の酒の好みと傾向が似ている人にはおいしいと思っていただけるものと思います。
 酒は好みですから、ここにあげた酒が万人にうまいとは限りませんのでそのへんはお含みおきください。これは庵主が好きな酒ということでご紹介します。



「冬樹」の生酒にはうまいの魂がこもっている
 庵主がいちばん気に入っている酒がこの「冬樹」の生酒です。
 毎年3月になると、東京にもその年の新酒の生酒が送られてきます。新宿の伊勢丹デパートの酒売場の冷蔵庫の中に並びます。池袋の東武デパートの酒売場の冷蔵庫で見たこともあります。新宿の小田急ハルクの酒売場で注文票がついた「冬樹」を見たことがあります。赤羽のセシメ酒店で手にはいります。
 「冬樹」のうまさは「日々一献」になんどもとりあげていますのでそちらをお読みください。
 いつ呑んでもうまいと思う酒があります。それが自分の酒です。酒は値段ではなく、世評でもなく、自分がうまいと思う酒が一番いい酒なのです。
 いい酒にめぐりあえることはひとつの幸せだと思います。2001/6/10

「岩の井」の山廃純米吟醸一段仕込は酸味が美しい
 庵主がうまいと思う日本酒に共通していることは酸味が美しいということです。
 そのことに気がつくまでにかなりのお酒を呑みました。
 まずい酒といってしまったら身も蓋もありませんが、庵主がうまいと感じないお酒は何が足りないのだろうと思いながら呑んでいた結論が酸味のうまさだったのです。
 酸味といってもいろいろあるのでしょうが、酸味のうまさというよりも、うまい酸味のあるお酒が呑みやすいということです。
 もちろん酸味だけがお酒のうまさの正体ではありませんが、うまいお酒は酸味に魅力があるということです。
 お酒の酸味では「悦凱陣」がみごとだと思います。「悦凱陣」自体は庵主が好きな味わいの酒ではないのですが、その酸味の美しさはそれだけを楽しむためにまた呑みたくなるほどです。
 そして、同じ酸味でも「悦凱陣」とはちょっと違った魅力を味わうことができるのが「岩の井」の山廃純米吟醸一段仕込です。
 ちょっと酸が表に出過ぎるかなという感じもしますが、酒は酸味がしっかりしているとそれだけで呑みやすいということがわかります。
 本当は、酸味などの特徴が際立っているお酒はいいお酒ではないのでしょうが、逆に酸味がしっかりしていないお酒は呑んでいても何かが物足りないと思いが残るとがわかります。2005/03/21

安くてうまいお酒「酔仙」の年末年始酒「初酒槽」(はつふね)
 庵主は一升瓶を買うことはまずありません。
 呑みきれないからです。
 時間をかけて呑むんでいると、だんだんお酒の味わいが口開けの時に飲んだうまさに比べて薄まってきます。ただ酔っぱらうだけでいいのならそれでも十分ですが、お酒の味わいを楽しみたいという庵主にとってはそうなったお酒は呑んでいてもつまらないお酒です。だから呑みたくありません。
 なのに久しぶりに一升瓶を買ってしまいました。
 「酔仙」の「初酒槽」(はつふね)です。百貨店の試飲販売に出ていたお酒です。年末年始用のお酒として毎年タンク1本だけ仕込むお酒だといいます。問屋に残っていた何十本かが出てきたということでした。
 この酒がうまいのです。一口でうまいと感じたお酒でした。
 うまいというのはまず甘いということです。
 日本酒度が+の酒は辛口の酒、−の酒は甘口の酒ということになっていますが、実際には辛口の酒でも呑んだときに甘いと感じるお酒が少なくありません。庵主は辛口で甘い酒が好きです。
 甘い酒が好きだとといっても、ただ甘いだけでは次が呑めません。甘さがすっと切れていく酒がいい。そのためにはアルコール度数がちょっと高めの酒が庵主がうまいと感じるお酒の条件です。
 この「初酒槽」のアルコール度数は19度以上20未満とあって、かなり度数が高いのですが、それを感じさせないところがこのお酒のうまいところなのです。
 甘いと気づく前にアルコールの度数の高さがそれをさっと打ち消して、アルコールの度数が高いと感じるところを甘さがまろやかにそれを包み込むといった感じで、うまいと思っているうちに杯が空いてしまうというお酒です。
 しかも値段が安い。一升で2100円(税別)です。
 うまくて安い酒なのですが、ここは安いのにうまい酒だということにしておきたいと思います。2005/3/21   
しぼりたて生原酒のうまさが味わえる「司牡丹」
 庵主は「司牡丹」で酒造りの実習をさせてもらったことがあります。だから高知県の佐川町には足を向けて寝ることができません。
 とはいっても、「司牡丹」の味わいは庵主の好みの酒とはちょっと違っています。
 「司牡丹」は地元の酒なのです。ご当地の皿鉢料理のような豪快な料理にぴったり合う味なのです。「司牡丹」は料理と一緒に呑む酒なのです。
 一方庵主は酒自体をじっくり味わうことが好きなので、「司牡丹」の切れ味のよさは酒だけを呑むことが好きな庵主にとってはそれだけでは物足りないと思う酒なのです。
 そういう「司牡丹」の中で、これが庵主の好みの酒だというのがこの本醸造生原酒の「はつしぼり」です。甘いのです。もちろん辛口の酒であって甘い酒です。
 搾りたてのお酒のうまさがそのまま詰まっている一本です。
 ほんとうは蔵見学にいった人だけに売っているお酒なのですが、どういうわけか今庵主の手元にあるというわけです。
 若いお酒だからたくさん呑みたいというお酒ではありませんが、そのさわやかさは辛口硬派の「司牡丹」の中にあっては異色のうまいお酒です。2005/3/21

「花の舞」の純米酒がうまい、しかもこの値段で
 「花の舞」は静岡の酒です。
 静岡の酒は庵主がうまいと思う酒が多く、「どこの酒がうまいですか」と聞かれたら、ためらわず「静岡の酒がうまいから、静岡の酒を呑みなさい」とこたえるほど贔屓にしています。ただしできるだけいい酒を呑んでみてください。安い酒では蔵元の味わいの違いが楽しめないと思われますので。
 その「花の舞」の「純米酒」が庵主の好みの常飲酒です。うまくて安い。冷や(常温のこと)で呑んでもあまくて、しかも燗をつけてもそのうまさがくずれることなく味わえるのですから、この酒はお買い得です。一升で1950円です、税別で。小田急ハルクで時々みかけます。あったら買いです。
  日本酒では燗酒が伝統の呑み方といいます。酒をあたためて呑むのは体にはいいようです。酔いがはやくまわるので少ない量の酒で楽しめるからです。当今はやりの吟醸酒は冷やして呑むほうがおいしいということから、その影響で燗酒造りに力がはいらなくなったものか、庵主の感じるところでは「これは燗するとうまい」と書かれた酒を買ってきて燗をつけてもうまいと思う酒が少ないのです。冷やもよし、燗にしても味があるという「花の舞」純米酒は得難い酒です。
  ただし01.06.04に瓶詰されたそれは味が違っていますのでこの限りではありません。2001/6/10

「秋鹿」の2年もの生酒はなめらかで甘美
 「秋鹿」は米から自前で作っている蔵元です。その生酒を買ってきました。
 銘は「一九九九 二・十九」。これは酒を搾った日のこと。買い求めたのは2001年の6月1日ですから、この酒は生酒のまま2年間静かに眠っていたことになります。
 口に含んだときのそのなめらかなこと。こんなに舌にここちよい飲み物があるのだろうかというような甘美な感触が楽しめます。酒の食感の白眉といったら宣伝文句になってしまいますが、その感触は一度体験してみる価値があります、酒の好きな人には。
  笹塚の本間酒店にあります。500mlで2800円、税別。
 「冬樹」の味わいに似て品のある生酒なので庵主は好みです。でもよく勘定したら一升10,080円なのですからうまいのはあたりまえです。「冬樹」はやっぱり偉い。2001/6/10