「むの字屋」の土蔵の中にいます
 
平成11年7月の開庵から9月迄の日乗


★高知の「藤娘」の純米吟醸は純米酒の傑作だ★11/9/30
 「藤娘」(ふじむすめ)の純米吟醸を呑む。純米酒である。まずい純米酒に特有の米くささがない。それでいて純米のコクがある。米の酒の深い味わいがある。純米酒のあの「くどみ」をうまく逃げている納得のできる純米酒である。
 ところで、このずっしり重い味を好むかどうかは、わかれるところだろうと思う。新潟の酒のさらりとした軽さはちょっと異常だと思うにしても、このよくできた純米酒の重い味を支持する人は都会では少ないのではないだろうか。
 この酒をのんだ新宿御苑の「香名屋」(かなや)には久保田のシリーズが全部揃っている。「碧寿」(へきじゅ)もちゃんと常備されている珍しい店である。


★本醸造という呼称には困ったものだ★11/9/27
 庵主のような日本酒マニアには、本醸造といってもアルコールを適度に混ぜた日本酒であることは自明のことであるから、その呼称はあたりまえのことと思っていささかの疑問ももたないまでに日本酒業界・大蔵省酒税局に慣らされてしまっているが、しかし、なにも知らない普通の人が「本醸造」(ほんじょうぞう)という呼ばれる日本酒をみたら、米だけで造った昔ながらの造り方をした日本酒だと思うのではないだろか。
 米だけでつくった酒が本当の日本酒であるというのが、三増酒が全盛のときの先進的な日本酒マニアの主張であった。日本酒は昔ながらの純米酒にもどるべきであるというのだ。庵主もその考え方に納得してその純米酒というのを探したが売ってないのである。その頃、純米酒はまさに幻の酒であった。酒に特急、一級、二級という不思議なランクがあったころの話である。おっと、特急でなくて特級だ。そして今でもそうなのだが、その純米酒が必ずしもうまい酒ではないのである。
 酒の造り方がよりうまい方向に向かっているときに、アルコール添加を目の敵(かたき)にするのはどうやら時代錯誤の感を呈してきた今日この頃である。


★純米酒が正しい日本酒であるというのは時代錯誤であると庵主は思う★11/9/26
 「夜明け前」(よあけまえ)の純米酒を呑んだ。管理のいい居酒屋で呑んだので、ほどよく冷えていて、味もこってりした重みがあり、いかにも豪気な日本酒という充実感のある味である。しかし、実力のある蔵である「夜明け前」(長野の小野酒造)が造ってもやっばり純米酒特有の「くどみ」が残っているのである。庵主がそれを「米くさい」といっている純米酒の雑味のことである。
 庵主はくどみのある純米酒の味を好まない。純米酒であっても磨きをあげるとくどみはなくなるようだ。また通常の精米歩合でもうまく造られた純米酒はくどみがない。ただ普通に純米酒を造ったのではどうやらその「くどみ」が残るのは避けられないようである。
 アルコールを混ぜる日本酒を邪道であると糾弾する人がいる。しかし「夜明け前」の純米酒でもわかるように、米くさい酒よりもアルコールを添加したくどみがなくて呑みやすい酒の方がいいと庵主は思うのだ。時代の味覚が変わりつつあるのだと思う。


★酒は管理で呑む。適温で呑む★11/9/25
 「正雪」の大吟醸を呑んで落涙した「一の倉」で、庵主は「葵天下」(あおいてんか)の吟醸を呑む。静岡の酒は期待を外さないからうれしい。うまい。
 ほどよく冷やされているのがいい。この温度管理のほどよさが日本酒のうまさを左右する。適温で呑む吟醸酒はさすがにうまい。吟醸酒の適温とは冷蔵庫で冷やされたものである。室温では吟醸酒のうま味は立ち上がってはこない。
 酒には呑み頃の温度というのがある。とけてべとべとになったアイスクリームではその本来の美味さがわからないのと同じように、酒も適温で呑まないとその本来のうまさは味わえないということである。
 吟醸「葵天下」の味は、ていねいに造られた吟醸酒が醸しだす渋い味がする。この酒を常温で呑むと、いっけん、ただのだれた酒に感じるのではないかと思う。もっともきちんと造られた酒だからのその酒質のよさはじきにわかるのだが。
 酒は適温で呑むのが一番うまい。


★高知の「美丈夫」は淡麗辛口の新潟酒をめざすのか★11/9/18
 「濱の鶴」(はまのつる)といえば以前から注目されていた高知の酒で、庵主はさいわいにかつて新宿の「楽太朗」(らくたろう)で呑んだことがある。今は昔の話なので、その時の「濱の鶴」がどんな味だったかは今となっては覚えていない。ということはまずい酒ではなかったということてある。まずい酒なら記憶に残っている。当時から評判にたがわない水準以上のきれいな酒だったのだと思う。その「濱の鶴」の造る「美丈夫」(びじょうふ)は、都会向けのきれいな酒である。
 「夢許 斗瓶採り」(ゆめばかり とびんどり)はさすが30%まで米をみがいてていねいに造られただけあって、美酒の風格を堪能できる酒である。
 「雅」(みやぴ)は精米歩合45%で、しなやかな腰の味で、いや、しなやかというより腰が弱いといったほうがいいやわらかい舌あたりであった。庵主には物足りない。「薫」(かおり)は磨きは40%で、あたりさわりのない味に仕上がっている。
 「美丈夫」の高精米シリーズは、新潟の、淡麗辛口の酒を呑んでいるときの雰囲気に似た味わいの酒である。少しきれいすぎるかな。


★北海道の日本酒の味は不思議な世界が広がる味がする★11/9/13
 庵主がこれまでに呑んだ北海道の日本酒は一様に生真面目な味がする酒だった。ケチをつけるところはない。そのかわり面白くもない。うまい日本酒にはある「うまい」の部分がそっくり抜けている。不思議な味の日本酒なのである。
 新千歳空港にある酒屋「ノルディス」には全道の酒が揃っている。北海道新聞社から発行されている「北の美酒めぐり」には道内の16蔵が紹介されているから、ちゃんと日本酒は造られているということだ。
 「北の誉」(きたのほまれ)、「千歳鶴」(ちとせつる)、「北海男山」(ほっかいおとこやま)と名の通っている酒もある。高倉健の「鉄道屋(ぽっぽや)」には栗山町の「北の錦」(きたのにしき)が出演していた。
 その中で、「北海男山」の純米大吟醸は力のはいった酒である。吟醸香も十分、色もうすい黄色みをたたえていて呑む前から期待の高まる酒である。この酒はたしかにうまい。北海道の酒では白眉といえる。しかし、もう一杯呑みたいという「うまい」がないのだ。ただし同じ蔵の「復古酒」は呑める。


★神力で造った純米酒はアルコールが立っていてうまい★11/9/9
 酒を造る米と食用の米は品種が違います。コシヒカリとかササニシキなどの食用米はごはんで食べておいしい品種です。一方、酒造用の米は、食用に比べて粒の大きいものを精米歩合70%威子に磨いて使います。
 精米歩合70%とは、一粒の米の外側の30%を精米機で削ることをいいます。大吟醸酒の中には精米歩合30%という酒がありますが、これは米粒の70%を糠にして造った酒ということです。100俵の米を買ってきて70俵を糠にして捨ててしまうわけですから、いかに贅沢な酒であるがわかると思います。もっとも、糠は本当に捨ててしまうわけではありません。せんべいの原料などに使われます。
 山田錦(やまだにしき)が代表的な酒造米の品種です。新潟ではよく五百万石(ごひゃくまんごく)という品種が使われています。
 「神力」(しんりき)も酒造米ですが、これは最近一部の蔵で使われるようになった米です。めずらしい米なので「富久娘」が造った「大神力」純米を呑んでみました。その呑みこごちがこのタイトルです。

 13年7月7日に補遺。ところで「神力」は酒造好適米なのだろうか。物の本に「神力」「強力」「亀の尾」はあれは飯米であると書いてあるのを読んだことがあるものだから。


★能登杜氏の酒がうまいと庵主は思う★11/9/8
 酒は、「開運」の大吟醸酒「能登杜氏 波瀬正吉」がうまい。波瀬正吉(はせ・しょうきち)、農口尚彦(のぐち・なおひこ)、三盃幸一(さんばい・こういち)、中三郎(なか・さぶろう)を能登杜氏の四天王と呼ぶ。
 農口尚彦は「菊姫」(きくひめ)の、三盃幸一は「満寿泉」(ますいずみ)の、中三郎は「天狗舞」(てんぐまい)の杜氏である。いずれも呑みごたえのある酒である。 ただし、それぞれの上位ランクの酒について言っている。名人が造っても、普通ランクの酒はどうしても似たような、うまくないとはいえないまでもそつのない味の酒になるのでそれを呑んで酒のよしあしを決めつけないことである。
 庵主は、能登杜氏が造る酒と相性がいいようだ。淡麗辛口の酒を造っても、能登杜氏の酒は新潟のそれとは一味ちがっていて味を楽しむことがてきる。
 「竹葉」(ちくは)の純米吟醸(四合瓶で1460円)も、能登杜氏の技を感じる淡麗辛口の酒である。
 能登杜氏の酒はいずれを呑んでもおもしろいからやめられない。


★アルコールが立っている酒がうまい★11/9/6
 普通酒を呑んだときの物足りなさ、というよりその味のつまらなさは何が原因かと考えたことがある。
 ひとことでいえば、うまいと思えない味をしていることにある。
 では何がうまくない理由なのかというと、それらの酒は一様に味がだれているということに気がついた。
 だれているというは、腰がない酒のことである。腰がないというのは酒が口の中でべたーっとしていてアルコールの元気が感じられないということである。
 庵主の常飲酒である「冬樹」が、今年の夏の暑さにもまけず、アルコールの立った酒質が少しもくずれなかったことに感心した。口に含んだときに感じる酒の立体感はアルコールのせいかとも思った。「冬樹」はアルコール度数が19度近くあるかなり度数の高い酒である。
 しかしそうではない。富久娘の「純米 大神力」(だいしんりき)は14〜15度の酒であるが、アルコールがしっかり立った実に口当たりがいい酒なのである。
 日本酒にはアルコールの元気が感じられる美味い酒と、元気がなくなったうまくない酒の2種類があるということである。


★「鄙願」を呑むのが悲願だった。美酒である★11/9/5
 新潟の大洋酒造が造った「鄙願」(ひがん)は、美酒であるという評判を新聞で読んで長く気にかかっていた酒である。都内でも扱っている居酒屋・料亭は数店ぐらいしかないという。いつ口にできるものかと思っていたが、歌舞伎町の「炙谷」(あぶりや)にあった。タカネ錦で45%。大吟醸酒である。
 冷蔵庫から出された「鄙願」の一升瓶は呑み頃に冷えている。注がれたグラスからうっすらと吟醸香がただよってくる。それは抑制のきいた香りである。口にすると、気品のある味がじわっと伝わってくる。味吟醸である。期待どおりの美酒である。
 その味わいをじっくりと楽しんでみた。そんな楽しみに遊べる酒である。
 めぐりあえた幸せがひしひしとこみ上げてきて、心から喜びがわいてくる酒が次々とあらわれる。日本酒は、いまほんとうに力がはいっていると思う。この恵まれた時代に生きている幸せを見逃しているなんて、もったいないと思いませんか。


★思いがあれば、静岡の酒はむこうからやってくる★11/9/3
 静岡の酒が、庵主は好きである。
 「開運」の大吟醸「波瀬正吉」はうまい。いや、うますぎする。
   「磯自慢」も評判にたがわぬ堂々の酒である。横綱の貫祿がある。
 大吟醸の「正雪」にめぐりあって、その思ってもいなかったうまさに感涙したことは前に書いた。
 「喜久酔・松下米」の大吟醸の緊張感は呑んでいてここちよい。
 「士魂」、「若竹」の「おんな泣かせ」、「君盃」と、都内でもけっこう静岡が呑める居酒屋はある。
 これらはそれぞれの蔵の吟醸、大吟醸だからいい酒にきまっているのだが、期待して呑んで、その期待にきっちり応えてくれるからますます静岡の酒が好きになってしまう。
 「初亀」の「滝上秀三」を呑んで、酒はやっぱり静岡だと納得してしまうのだ。


★日本酒には「うまい酒」と「口にあわない酒」の二種類しかないと知る★11/9/2
 庵主は、好奇心から試してみた 消毒用アルコールや香水に使う変性アルコールは別にして、1.8リットル箱入り5〜600円で売ってるいる合成酒はもちろんのこと、三増酒(正しくは三増酒を混ぜた酒)、本醸造、吟醸、大吟醸と日替わりで酒をのみつづけきたが、結局、酒には美味い酒と庵主の口にあわない酒の2種類しかないと悟ったのである。口にあわない酒はまずい酒というのではない。大吟醸でも庵主の口に合わない酒はある。もちろん、こんな酒だれが飲むのだと思えるようなまずい酒もある。
 今日は、庵主は口に合わない酒を二つ呑んできた。
 一つは磨きすぎで腰のない酒になってしまった大吟醸。もう一つは純米酒で、米くささはないものの、それ以上の魅力がない酒だった。
 それにしても、杜氏さんが心をこめて造ったお酒を、うまいだの、まずいだのと勝手なこといってる性格の悪さを庵主はいたく気にしているのである。

欄外。変成アルコールというのは、飲料として使えないようにゲラニオール〔ばらの匂いがする人工香料〕や人工ムスクの匂いがつけられた呑むにたえないアルコールのことである。


★日本酒度マイナス(−)の酒は必ずしも甘い酒ではないということ★11/9/1
 日本酒度でプラス(+)は辛口、マイナス(−)だと甘口ということになっている。
 たしかに理屈では、そういっても間違いではないのだが、実際はそうはいかないから酒はおもしろい。
 マイナスの酒でも、酸味がしっかりきいていると、必ずしも甘いとは感じないときがある。甘口といわないで、旨口(うまくち)と表現している人がいるが、どちらかというとその方がいいように庵主は思う。
 プラスの酒なのに、ていねいに造られたやわらかい味の酒を呑むと甘いと感じることがある。
 庵主がどちらかといえば旨口の酒を好むのは、辛口の酒では味がうすっぺらく感じられて物足りないからである。酒を呑んだという満足感が得られないのである。庵主が量が呑めないので、少量でもうまいと感じる酒は旨口の酒に多いからである。
 結論。要するに酒は呑んでみなければそのうまさはわからないということである。


★「良寛」のさらりとした味わいに、日田の「角の井」の本醸造を思い出す★11/8/31
 ひさしぶりに呑んだ新潟の酒は「良寛」である。ふつう、庵主が酒を呑むときはアルコールを呑むぞという構えがあるのだが、「良寛」はちがった。水のように呑めるのである。酒なのにアルコールを感じさせない、さらりとはいる酒である。水のように呑めるといったが、そうはいってもやはり酒である。酒を呑んだという満足感がしっかり残るのがすごい。
 大分県の日田市(ひたし)を旅したときに、日田の駅前の食堂で呑んだ「角の井」の本醸造がそうであった。水のようにさらりと呑めるのである。アルコールを感じさせないで喉にすーっとはいる酒だった。それは旅先で呑む酒のうまさだったのかもしれない。

 
★「上善如水」の表示は親切である。「良寛」もいい。さすが新潟の酒だ★11/8/28
 白瀧酒造の表示は親切である。白瀧は「上善如水」を出している蔵元である。「上善」シリーズの外箱には酒の製造月日が表面の見やすい位置にはっきり「製造年月日 99.08.10」と打ってある。
 製造年月日は買い手にはっきり見えるように表示するのがあたりまえなのに、どこに印字されているのかわからない酒がある。菊正宗の「雅」(みやび)が最悪である。何のために製造年月日を打っているのかわからない表示の仕方をしているのだ。どこに印字してあるかというと、表ラベルのちゃんと左下に打ってあるのだが、しかし、その部分がラベルの細かい模様と重なっていてよほど注意して見てもわからないのである。
 美の川の「良寛」も製造年月日は外箱にシールを貼って表示している。いちいち箱をあけて中の瓶を取り出し表ラベルに印字されている製造年月日を見るということは長く東京にすんでいる人にとってはやりたくない所業である。
 新潟の両蔵の見やすい表示は模範となる親切な表示である。さすが新潟の酒は進んでいると思う。


★久保田が新宿のクイーンズシェフに並んでいます★11/8/28
 新宿のクイーンズシェフ(伊勢丹デパートの駐車場ビルの1〜2階)に久保田のシリーズが並んでいました(8月28日のことです)。
 居酒屋で、久保田の萬寿は1杯1500円というところが標準である。1800円なら高い、さらに2000円もとる店には客になにを呑ませているのかとあきれてしまう。酒を呑ませるのか、それともレッテル代を飲ませているのかと。
 ところでその久保田がいったいいくらで売られているのかはじめてわかりました。  百寿=一升瓶で1950円。千寿=一升瓶で2350円。萬寿=四合瓶で3500円。紅寿=一升瓶で3200円。翠寿=四合瓶で2700円でした。
 それにしても久保田は表示が不親切である。百寿と千寿がどうちがうのかが瓶にはってある裏と表のラベルをみても何もかいていないのだ。売場の値段札に、百寿が本醸造、千寿が特別本醸造と書かれていたが、それで両者の違いがわかりますか。
 もっとも庵主は新潟の酒はどちらかというと好みではないのでどうでもいいのだけれど。

後日記。
 平成17年の2月にクイーンズシェフの前を通ったら、食品売場はなくなっていて、美容関係の売場だけのビューティークイーンに変わっていた。だから、このときのクイーンズシェフは今はない。


★喜楽長の大吟醸「天保正一」は宝塚みたいな華やかな酒だ★11/8/28
 庵主が、気分の落ち込んだときに呑む酒が「喜楽長」(きらくちょう)の大吟醸酒「能登杜氏 天保正一」(てんぽうしょういち)である。
 「喜楽長」は滋賀の酒で、滋賀では甘口の酒が好まれるというがそれは庵主の好みでもある。そして杜氏の名前を冠したこの大吟醸酒「天保正一」は、口に含むとまるで宝塚の舞台のような華やかな世界が広がる心楽しい酒である。
 かおりが華やかである。それだけでも心がわくわくする。ひとくち盃をかたむけると、そのかおりにたがわない華やかな気分が口いっぱいに広がる。うまい、と思う。大吟醸だらなのではない。天保正一杜氏のお人柄がこの酒にはこもっているからである。なんともいえないおだやかな味をたたえた気品のある酒である。そして心ときめく酒である。これほど杜氏の人柄を感じて楽しめるうまい酒はない、と庵主は思っている。呑んでいるうちにいつのまにか落ち込んでいた気分もかろやかになってくる酒である。
 でも、高いよ、一升瓶で7〜8000円の酒です。純米大吟醸もあります。高くてもそれだけの価値がある酒です。


★日本酒の季節がきた。これから酒がますますうまくなる★11/8/27
 日本酒は、最初はうまいとは思わなかった。ある日、呑んでいて心からうまいと実感したことがある。それから日本酒になじんでしまった。
 ワインはいまだかつて、うまいと思ったことがない。
 ウイスキーは、うまいとは思わなかった。ところがシングルモルトを飲んで、こんなにおいしい酒だったのかと納得した。庵主は「モートラック」のような甘めのモルトが好きである。ブレンデッドは今でもうまいとは思わない。
 焼酎は、私の好みではない。あの味をうまいと思って飲んでいる人の味覚がわからない。焼酎はキレがいいから(翌日に残らないから)飲むという人もいるが、体にやさしいからうまくもない酒でも飲むという考え方が理解できない。庵主は体にさわってもいいからうまい酒を呑みたいと思う。もっとも小さいときから焼酎の環境の中で育ってきたのなら、うまいまずいは別としてそれを文化として飲んでいるのだろう。それならわかる。
 秋になると、日本酒がいちだんとうまくなる。いい季節である。また呑みにいこう。


★「岩の井」の「ぎんから」はあえて呑まなくもいい酒である★11/8/26
 千葉の御宿(おんじゅく)にある「岩の井」は、醸造石数は少ないが、うまい酒を造る蔵である。庵主がひいきにしている蔵である。
 玉栄(たまざかえ)という酒米を精米歩合60%で造った岩の井の「昭平庵」(しょうへいあん)はうまかった。
これも「冬樹」に似た庵主好みの味の酒である。
 玉栄を使ってこんなうまい酒を造ってくれたのがうれしい。しかも磨き(精米歩合のこと)が60%というのがいい。酒米を磨いて磨いて、はては35%ぐらいまで磨いて酒を造るとたしかにうまい酒ができるのだが、しかし65%も糠にして落としてしまうなんて、米が勿体ないと思うのだ。しかし、普通酒の70%ではちょっと味がおもしろくない。というわけで今庵主が求めているのは精米歩合60%でうまい酒である。これがなかなかないのだけれど、ところがさすがの岩の井、「昭平庵」でそれを造ってしまった。すごい実力のある蔵なのに、なぜか「ぎんから」(これも精米歩合60%)だけは。む、あえて呑まなくていいと思う。



★日本酒はこんな境地で呑みたいと思っています★11/8/25
「島原の子守唄」
の作詞で知られる中途失明の作家、故宮崎康平さんが、訪ねてきた永六輔さんに酒を勧めたことがある。下戸の永さんが断ると、こう言った。
 「酒を呑むのはね、盃の上をわたる風を味わうことですよ」
                   *
 「海のかなたに蔵元があった」(石田信夫著・時事通信社1997年3月刊行1854円)から引用させてもらいました。

 この境地がとてもきもちいい。そうか、庵主が日本酒を呑んで感じていたのはそれだったのかと納得して、また酒が呑みたくなるいいことばです。


★庵主はいま静岡の酒にほれこんでいます★11/8/23
 静岡の酒が庵主は好きだ。それぞれの蔵に個性があってしかもそれがうまい。
 「正雪」(しょうせつ)の大吟醸を神田小川町の居酒屋「一の倉」で呑んだときには、そのうまさにびっくりしてしまった。大吟醸のあの少しこってりした酒質がいい。酒に重みがあって舌にのせたときに心がはずむ。味も庵主好みの甘さである。大吟醸なのにてらいがない。どうだ大吟醸だ、うまいだろうといった押しつけがましいところがない。あ、大吟醸ができちゃったという感じなのだ。呑んだときの気分が実にさわやかなのだ。こんなにいい気持ちで呑める酒はそうはない。
 「磯自慢」(いそじまん)も評判どおりのうまい酒だ。もっとも四合瓶で二万円の「磯自慢」は失笑をかっていたが、それだって酒が悪いわけではない。二万円という値付けがおかしかったのである。
 「花の舞」(はなのまい)が好きだ。一升瓶で二千円をきるその純米酒は、庵主の好きな「冬樹」に似た味わいの美酒である。こんなに安くていいの、と思わずうれしくなってしまう酒である。
 静岡の酒のうまさを話しはじめるときりがない。


★常識人は食い物や飲み物に凝ることなかれ★11/8/22
 大阪の食い倒れということばあるが、田辺聖子氏が書いたものによると大阪の商人(あきんど)は食い道楽を馬鹿にしていたらしい。どこそこのあれがうまい、それがまずいという話自体が放蕩(ほうとう)のきざしとして位置づけられていた、という。大阪の商家は現実主義であり、食道楽を口いやしいとしておとしめしていた、という。(このあたりまでは読売新聞の書評欄から引用しました)。
 「あしたになったら水に流してしまうものにお金をかけてはいけない」としっかりした大阪人はいう、とも読んだことがある。
 そのあたりが健全な考え方というものだろう。どの酒がうまいだの、よくないだのと、人の造ったものをはたから論じることは健康的な食生活から逸脱した偏った性向といっても過言ではない。したがって、本ホームページはかなり偏向趣味に陥っていますので、貴殿もしくは貴女の品性をいやしめる可能性があることをご承知のうえお読みください。「マニア」の世界におちこむことがありますので。


  ★銀座三丁目の「ささ花」の酒はすごい。でも勘定はわからない★11/8/22
 「開運」の「波瀬正吉」(大吟醸)を初めて呑んでそのうまさにびっくりしてしまったのはささ花でだったと思う。
 この店の酒の揃え方はすごい。酒のリストにはマニア垂涎(すいぜん)の大吟醸酒が綺羅星の如く(きら、ほしのごとく)並んでいる。見ているだけでも幸せ気分にひたることのできる見応えのある酒名帳である。
 店先に、波瀬正吉杜氏の大きな顔写真と斗瓶取りの「波瀬正吉」があったので、ついふらふらと「波瀬正吉」を呑みにはいってしまつた。
 瓢箪型の徳利に正一合の「波瀬正吉」が出てくる。まさに大吟醸の味である。グラスは60ミリリットルの日本酒グラスである。酒のいろをしっかり楽しむことができる。
 今度呑んだ「波瀬正吉」は少しうますぎるように思えた。それともいろいろな酒を呑みすぎて庵主の舌が肥えてきたせいか。
 ところでそのお勘定がわからなかった。先付けと酒一本(1600円)と煮魚で6300円である。べつに高いといっているわけではないが、どういう計算なのか美酒にここちよく酔った庵主にはやっぱりわからなかったのである。



  ★最近呑んだ酒★11/8/13
1 白瀑の「一徹蔵」。酸味がしっかりして呑みやすい酒でした。
  たくさん酒を呑める人には呑みやすい酒だと思います。
2 いなば鶴の「強力」。ごうりき、と読みます。酒米の品種名です。
  あまり使われることのない酒米なので、どんな味になっているかと呑んでみました。
  かなり派手な感じがする吟醸酒です。精米歩合を確認しなかったので大吟醸かもしれません。まごうことなき吟醸酒という味です。かおりも豊かで、味わいもたっぷりと甘みがあって贅沢な酒という雰囲気をたたえています。庵主はこういう甘い酒が好きです。
 以前にこの「強力」を呑んだことがあるのですが、そのときの味は今回みたいに派手ではなかったと記憶しています。というよりそれは不思議な体験でした。
 一口呑んだ時にはそうでもないのですが、すこしすると口の中いっぱいに華やかな味が広がってくるといっためくるめくような経験をしたことがあります。
 味を変えたのか、それとも庵主の記憶が不確かなのか、今回はめくるめくような経験はありませんでした。最初の一口からうまい酒にしあがっていたからです。


★久保田の紅寿を呑んでみたら★11/8/12
 久保田の紅寿(純米酒)を呑みました。
 久保田には百寿、千寿、萬寿、それにこの紅寿、さらに翠寿、碧寿と6種類の酒があります。
 純米酒は、へたな造りだと、純米酒特有の「くどみ」が出ていることがあります。「くどみ」がある純米酒を呑んだときには、酒は純米にこだわることはないと思います。本醸造でずっとうまい酒がたくさんあるからです。
 紅寿は、もちろん「くどみ」などはいささかも感じられない美酒です。久保田を名乗るだけあって品格のある純米酒でした。一度は呑んでみたい酒です。新潟酒の実力と販売の意欲が感じられます。
 ただし、いい酒だとは思いますが私の好みではありません。うちにかえって「冬樹」をじっくり呑みました。最後は味の好みにいきつきます。いい酒が必ずしもうまいわけではないというところに酒のおもしろさがあります。


★暑い夏は吟醸酒の味わいに夏の疲れがいやされる★11/8/11
 連日の猛暑で、生ビールのうまいこと。この季節は生ビールを飲まないことには体の渇きがおさまりません。とはいえ、生ビールの飲み過ぎでますますけだるさを増した体をいやしてくれるのは本当にうまい吟醸酒にほかなりません。
 「水芭蕉」のビンテージもの(要するに古酒のことです。純米吟醸でした)で、1995年醸造の酒を呑みました。日本酒は、はやいものだと1年も寝かせると、色が少し黄色くなってきて紹興酒のような味になってくるものですが、この酒は3年以上も眠っていたというのに紹興酒のような味にはなっていません。色も黄色くはなっていません。でも味の隅に何年か眠っていたと感じさせるものがひそんでいました。
 きちんと冷蔵庫に保管された店で呑んだので、その味わいは十分満足できるものでした。いい酒を呑むと、かすかに酔いを感じながらも連日の暑さで気力が落ちている体がすっきりしてくるのがわかります。夏の吟醸酒の効用です。もっとも健康のためなら養命酒が一番ふさわしいのかもしれませんが。


★自腹を切って呑む酒がいちばおいしい酒なのです★11/8/11
 庵主の長年の経験からいえる真理を一つ。
 たばこは、どういうわけか人のたばこをもらって吸う一服のうまさがなんともいえない。
 酒は、自腹を切って呑む酒が一番うまい。


★余市のニッカウヰスキーの醸造所に行ってきました★11/8/9
 8月8日に、北海道の余市にあるニッカウヰスキーの北海道工場を見学してきました。
 余市ディスティラリー(醸造所)は、JRの余市駅から歩いて5分ぐらいのところにあります。街の真ん中に醸造所があるとは思いませんでした。
 一歩、工場の門をくぐると緑がさわやかな広い庭の中に乾燥棟や蒸留棟、それに貯蔵庫などがあって工場というよりはまるで公園の中にいるような雰囲気です。
 今年の北海道の夏は東京に負けないほどの暑さで、この日も暑い日でしたが、醸造所の中では木々の間をさわやかな風が吹いていました。
 見学コースの最後は、お楽しみの試飲コーナー。おいしいウイスキーやワインなどをひととおり飲ませていただきました。


★泡盛の味がかわっていく時代にめぐりあわせた幸せ★11/8/4
 居酒屋「うりずん」の土屋實幸さんから聞いた話です。かなり脚色して書きますので文責は、庵主にあります。
 伝統的な重い味の泡盛の中にあって、何年か前から「菊之露」は泡盛の味をライト感覚な味に造りかえました。その味がうけて抜きんでて売れるようになったことから、他の蔵元も「菊之露」に倣(なら)えということで造りを工夫して味の改良を行ないました。
 「菊之露」は、ビールでいえば時代の味であるアサヒスーパードライの路線にいち早く泡盛の味をかえていったということです。
 ライト感覚(軽いだけで、呑んでいるのかどうかわからないような頼りない味)で、淡麗辛口(さっぱりしているが、呑んだという充実感が感じられない味)という心もとない手軽な味が好まれる時代はその味を歓迎しました。
 各蔵元の味が、いまでは「菊之露」以上に洗練されたことから、かえって「菊之露」の方が古い感覚の味に思われるようになったといいます。
 この話を聞いて、それはちょうど日本酒の「越乃寒梅」に似ていると思いました。


★泡盛のおいしい飲み方を聞きました★11/8/2
 新宿の伊勢丹デパートが「大沖縄展」(7月29日から8月3日まで)が開催されています。沖縄の特産品が数多く並んでいる中で、泡盛の蔵元さんも大きな売場を確保して泡盛を紹介していました。酒好きには見逃せない催し物です。17年ものとか21年ものの泡盛を試飲させてもらいました。60度で10年ねかせた泡盛も味わいました。私は焼酎類を好みませんので、進んで呑もうとは思わないのですが、この日呑ませてもらった泡盛のよさはわかりました。歳を重ねた酒のまろやかさと十数年をへても味がへたらない酒の気っぷのよさに酔いました。
 会場では那覇市にお店がある居酒屋「うりずん」のオーナー土屋實幸さんを迎えて泡盛のお話をきくトークショーが行われていました。私はこれを聞きにいったのです。
 泡盛はやはり長年ねかせたものがうまい。呑むときはストレートで呑みのがおいしい呑み方である。最近の泡盛は熟成させて呑ませるというより造ってすぐに呑んでもうまいという軽い造りがはやっている。いうならば淡麗辛口の泡盛が多くなってきた、など酒呑みの立場にたっていろいろおもしろいお話を聞かせてくれました。


★「冬樹」(ふゆき)を呑むとほっとします★11/7/30
 「むの字屋」の亭主は、じつは酒がほとんど呑めません。すぐ酔っぱらってしまい、体がアルコールを受け付けなくなるのです。
 あえて酒量をいえば、ビールをコップに半分といったところでしょうか。量は呑めないので、多少値段は高くてもいいから、いい酒が呑みたいという貪欲(どんよく)な酒呑みなのです。
 いくらアルコールがはいっている日本酒であっても、呑んだらすぐに酔いがまわるものではありません。
 口にした酒が体にしみわたるまでの十数分は、素面(しらふ)なのです。私が酒を味わうのはこのわずか十数分間だけなのです。
 「冬樹」は秋田の福乃友(ふくのとも)酒造株式会社が造っている限定酒です。量をたくさん造っていない酒なので手にいれにくい酒なのですが、新宿の伊勢丹デパートの酒売場にあります。この酒が私の好きな酒です。まずはこの酒を召し上がってください。私の日本酒の話はここからはじまります。
 「冬樹」は四合瓶で1553円(税別)です。火入れ(ひいれ)したものもありますが、生酒(なまざけ)の「冬樹」を選んでください。生酒というシールがビンに貼ってあります。


★うまい日本酒は保管のしっかりした居酒屋で呑む★11/7/30
 最近はいい日本酒の銘柄を数多くとりそろえた居酒屋がふえてきました。日本酒ファンとしてはうれしいことです。
 でもちょつと待ってください。日本酒は、日光があたるところに棚ざらしにしたり、夏の暑いときに室温でほおっておいたのでは、味が確実に劣化してしまいます。
 ですから、おいしい日本酒を飲ませてくれる居酒屋ではかならず酒を冷蔵庫にいれて保管しています。
 おいしい日本酒を呑みたいのなら保管のしっかりした店を選ぶことが肝心です。
 いい日本酒を、最高の状態で呑んだときの味わいは、酒というよりも芸術品といっていいような深い感銘をうけるほどです。杜氏さんの、そして蔵元さんの思いがのどもとを通して胸の中にしみこんできます。こういういいかたがおおげさでない本当に心のこもった日本酒がいまたくさん造られているのです。そんな時代にわたしたちはめぐりあわせているのです。
 この幸福を知らないでいるのはもったいないことだと思いませんか。おいしい酒がすぐそばにあるのに気がつかないなんて。


◎この店の生ビールはうまい◎11/7/28
 日本酒のページなのに、生ビールの話から始めます。
 世の中にビールの種類は4つあります。一つは生ビール、二つ目はビンビール、三っ目は缶ビール、そして四番目は腐ったビールです。
 ビールはやっぱり生がうまいと思います。
 生ビールがうまい店で、私のおすすめの店は、ビアホールなどではなく、銀座の東芝ビル(ソニービルの向かい側の阪急デパートがはいっているビルです)の地下1階にあるとんかつ屋さん「勝兵衛」(かつべえ)の生ビールです。
 この店の生ビールはいつ飲んでもうまい。炭酸のバランスがいい。
 日本酒もそうですが、生ビールも同じで、酒は管理のいい店のものがうまい。この店はとんかつもうまいが、生ビールの管理がいいのだと思います。
 渋いお茶のような苦みがして、炭酸がへたったような生ビールしか飲んだことのない人は、ぜひ「勝兵衛」の生ビールを飲んでみてください。うまい生ビールを体験していただきたいと思います。