庵主が好きなお酒をご紹介します
読んだだけでもうまい。庵主好みのお酒のご紹介
お薦めするお酒は、秋田の「福小町」の特別純米生原酒「ほっ」

2007/3/26掲載。お酒は呑まれてしまったらもう手にはいりません。気になったら即ご手配を。

 甘くなくてはお酒ではないと、庵主は思っています。
 日本酒は米から造る酒なのですから、その甘味こそが酒の特徴だと思っているからです。
 甘味を上手に引き出したお酒がうまいお酒だと思っています。
 辛口のお酒がもてはやされていますが、日本酒度で見たときに辛口とされているお酒でも+4前後の酒はけっこう甘いということです。
 超辛口を看板を掲げているお酒は、庵主は苦手です。甘さを無理に抑えて、アルコールのすっきり感を出そうという気持ちはわかるのですが、しかし、アルコールのうまさを味わいたいのなら、焼酎に任せた方がいいのではないかと常々思っています。
 清酒が辛口を目指すというのは、軽自動車を造る人がその本質を見失ってやたらと装備を重くして車本来の軽快感を損なっていくようなもので、それなら最初から普通車を造ればいいのではないかと庵主は思っています。
 もちろん、清酒は軽自動車で、焼酎などの蒸留酒が高級車だといっているわけではありません。本質を見違えると普通車より車重が重い軽自動車ができてしまうことがあるということを笑っているわけです。
 庵主が好きな酒は甘い酒です。甘口の酒ではなくて、旨(あま)い酒です。甘口の酒と甘い酒の違いは日々一献の中に書いてあります。
 庵主が甘い酒を好むのは、酒の量がたくさん呑めない体質なので少量でもうまいと感じられる酒でないと楽しめないという理由によります。ということで、ここでおすすめすお酒はそういう庵主の口に合った酒なので、庵主の酒の好みと傾向が似ている人には間違いなくおいしいと思っていただけるものと思います。
 酒は好みですから、ご紹介したお酒が万人にうまいとは限りませんのでそのへんはお含みおきください。庵主がうまいと思うお酒をぜひ味わってみてください。うまいお酒と出会った喜びをわかちあいましょう。



「福小町」の特別純米生原酒「ほっ」
 秋田のお酒「福小町」の特別純米生原酒「ほっ」は、庵の好みのお酒です。
 庵主はこういうお酒を好んでいるという見本ということでその味わいをご紹介します。
 まずお酒の値段ですが、一升瓶で紙箱に入っていて2600円です。それに消費税が加わって2730円になります。
 問題はそのお酒がどこで買えるのかということですが、これはとある酒販店の企画酒なのです。
 すなわち、そのお店でしか買えません。 
 逆に言えば、そこのお店に注文するとすぐ送ってくれます。
 
 「ほっ」を売っているお店は、秋田県の能代市にある天洋酒店です。
 ホームページがあります。天洋酒店をご覧ください。
 東京まで一升瓶を1本送ってもらったら宅配便の送料が945円もとられましたが、どこかにうまいお酒はないかと電車賃をかけて探し回ることを思えば、最初からうまいお酒が手にはいるわけですから、その電車賃よりは安いと思います。
 庵主の好みに近いと思われる方はこのお酒のうまさを、在庫があるうちにお楽しみいただきたいと思います。
 お酒の顔(写真)はこんな感じです。
 これを見て、一升瓶にうまいお酒のオーラを感じられた方はその直感は当たっています。



 このお酒はぬる燗にしたときににじみでてくるお酒の甘さがなんともいえないほどにうまいのです。
 冷や酒(常温の酒)を温めれば燗酒になるわけではありません。
 いちおう、温めれば燗酒とは呼びますが、それは形式的なものです。すなわち見掛けの形だけでしかありません。
 本物の燗酒はそれがうまいということなのです。
 その燗酒のうまさが「ほっ」で体験できます。これがホントにうまいんだなぁー。
 お酒が呑めない庵主が、このぬる燗を味わうと、ついもう一杯呑みたくなるのですから、このお酒のうまさは本物です。
 頭の中で理屈をこねながら呑む必要がないうまいお酒だということです。
 黙って呑めば、体が、これはうまい、と納得してしまうからです。
 庵主が金持ちだったら、世の顰蹙をかってでもこのお酒を買い占めたいところなのですが、それは叶いませんので、そのうまさをまだ知らない方に味わっていただきたいと思ってこのページを作りました。
 
 せっかくのうまいお酒です。そのよさを気にしないで呑んだ人に、ただうまい酒だったと言われて終わってしまうのでもったいない。このお酒は、うまいお酒に興味がある人にこそ味わっていただきたいからです。
 そのうまさを庵主と共有できたらこんなうれしいことはないからです。

 お酒のラベルに書かれていることを書き出しておきます。
 「福小町」の特別純米生原酒です。
 サインペンで書いたような文字で「ほっ」と書かれています。
 それが酒銘です。
 大印、小印という言葉があります。
 本来の酒銘を大印、そこで造られたお酒のニックネームを小印と呼ぶようです。
 「福小町」が大印、「ほっ」というのが小印ということになります。
 精米歩合は55%。アルコール分は17度以上18度未満。
 米の名前は書かれていません。
 企画発売元は天洋酒店です。秋田県能代市住吉町9の22。電話0185−52−3722。
 製造者はナショナル物産株式会社。
 製造場所在地および名称は秋田県湯沢市田町2−1−11、秋田木村酒造工場。

 これだけを読んで何が分かるかというと、天洋酒店が自信をもって世に問う酒だということです。とはいうものの、ラベルを読んだだけではそのお酒がうまいかどうかまでは分かりません。
 庵主は、お酒を長く呑んでいるので、ラベルを見ればその酒がうまいかどうかは大体見当がつくと書いていますがそれはウソです。
 呑まなくてもわかるというのなら、お酒を呑む楽しみがなくなってしまいます。
 お酒は、まず、呑んでみることです。
 そのあとで能書きを書けばいいのですから。
 そこで本当に呑んでみます。
 呑んでみると「ほっ」はうまいのです。そのうまさが段々膨らんで来るからこのお酒は本物です。本当にうまいということです。
 そのうまいにたどり着く前に、ちょっとラベルを読んでみましょう。

 まず酒別が書いてある。特別純米酒である。
 純米酒の方が本醸造酒よりも偉くて、純米大吟醸、純米吟醸、といった順番に偉いのだとしたら、それに続く、上から3番目の酒である。
 そして、その生酒だということである。
 火入れをしていないお酒のまろやかな舌あたりが期待できる。と同時に炭酸が粗(あら)いままだとそれは庵主にとってはあまりうまいと感じない酒である。
 精米歩合は55%である。
 吟醸酒の精米歩合の基準が60%以下となっているから、それに匹敵する酒である。
 純米吟醸酒と特別純米酒の違いは何かというと造り方の違いらしい。
 吟醸酒は吟醸造りをしたもので、特別純米酒は純米酒規格の酒であっても精米歩合をより上げた(すなわち、精米歩合の数字を小さくした)ことで特別と名乗っている酒だということである。
 もっともその区別は庵主にはよくわからない。
 そんなわからない基準を呑み手に押しつけるなと思うが、そういうことになっているのである。
 庵主は、うまいかまずいかでしか酒を選ばないから、そういう造りの違いなどはどうでもいいことだからである。
 ただ一般的には偉いお酒の方がうまいことが多いということだけは確かである。
 そういうお酒はいい米をたっぷり磨いて造るから、そして気合を入れて造るからうまくなることが多いのである。
 そこまで頑張らなくてもうまいお酒ができるという例がこの「ほっ」である。

 このお酒を造った造り手の気持ちが、呑んだときに「ほっ」とするお酒を造るということだったという。
 緑色の酒瓶に入ったお酒をグラスに注いで見てほしい。
 うっすらと山吹色を湛(たた)えている。やまぶき色というのは薄い黄色である。
 甘めの白ワインによくあるような呑み手の気をそそる色である。
 「ほっ」はまずなによりこの色がいい。日本酒の色をしているのである。
酒はまずは見た目なのである。
 日本酒は一時無色透明が流行ったが、焼酎じゃないのだから、そういうお酒は情を感じないのである。
 焼酎を混ぜて造った酒じゃないのかと不安になってくるのである。
 おっ、うまそう、という色をしていないとお酒ではない。いや、そうでない酒もお酒には違いないが、お酒の楽しみに欠けるということである。

 「ほっ」は冷やで呑んでも甘みが感じられる庵主好みの酒なのである。
 アルコール分17度という度数に庵主が弱いということはいつも書いているとおりであるが、16度台まではいまいち印象が薄かったお酒でも17度台になるとその度数だけでインパクトを感じるのである。
 日本酒はアルコール度数が高すぎるという人がいる。割水をして少し度数を下げて呑んだ方がうまいという。
 それは多分たくさんお酒が呑める人の感想なのだろう。
 庵主の場合は量が呑めないから、徐々にクライマックスに向かうという呑み方はできない。そんなに呑んだら酔っぱらってしまうからである。
 最初からほのかな甘さを感じさせるお酒で、度数が高めのお酒が庵主の好みである。
 ようするに甘くせつない味わいのお酒である。
 そのせつない味わいが「ほっ」で味わえる。

 「ほっ」が凄いのは、ぬる燗にしたときのうまさである。
 本醸造酒はアルコールを添加してあることもあって、燗をつけるとアルコールの透明感が浮いてくるようである。
 言い方によっては、それはすっきりしたうまさということになるのだろうが、それでは焼酎のお湯割とどこが違うのか庵主にはよくわからない。
 日本酒の燗のうまさは、温めたときに滲(にじ)み出てくるお酒の甘さなのである。その甘さがほんのりと底の方に感じられる苦みととも絶妙に調和して気持ちいいのである。

 「甘露、甘露」という言葉はそのときの感嘆なのだろう。
 うまいということは、快感である。快感ということは気持ちがいいということである。気持ちがいいからまた呑みたくなる、というのは、うまいお酒を呑みたいとは思いませんかと庵主が語りかけるときのツカミである。
 そういうお酒の実例がこの「ほっ」なのである。
 ちょっと呑んでみたいと思われた方は天洋酒店に問い合わせていただきたい。
 そのときに「むの字屋」を読みましたと書き添えてくれれば、配送時に保冷剤を一つおまけしてくれるかもしれない。
 天洋酒店から「ほっ」をわが庵(いおり)まで送ってもらったときに、今時分はまだ気候も寒いので、クール便にする必要はないとは伝えたら、では保冷剤を一つ入れておきましょうということになったという話である。
 「ほっ」を呑んでそのうまさに「ほっ」としてもらう楽しみにいざなう段取りは、あとは天洋酒店におまかせしたい。

 そういえば、この文章、途中で文体が変わっているのは、そこでいったん筆を置いて、そこからまた書きたしたためである。